#1・木下智也さん(国民宿舎小豆島・30代・第1期卒業生)

しまの塾の卒業生たち

Q、しまの塾を卒業して2年半。いつの間にか木下さんの刺身を食べに小豆島へ来られることがどんどん増え、すごいことになりました。何があったのですか?

たまたまYoutubeで見た動画がきっかけで「津本式」を知りました。津本式で仕立てた魚を用いて一流の料理人さんが料理したらどうなるのだろうと調べ、そこで出会ったのが宮崎県の「ゆう心」のオーナー。初めて津本式で仕立てたブリの造りを食べた時は衝撃的でした。今までの経緯をオーナーに話すと、快く津本さんと僕をつないで下さったんです。津本さんに「せっかく良いことをやっているのに世間に知られていないのはもったいない。これからはSNSが大事!!」と教えてもらい、僕の活動をインスタグラムで発信しはじめました。最初の投稿は小豆島のブランド魚「島鱧」を僕が津本式で仕立て、地元の方へお出しする話。他にも日々の僕が仕立てた魚や料理などの話題を投稿しています。日々更新される津本さんのYoutubeを参考に行い実践していく中で、津本式関係の人が僕の投稿を見て下さり個人のお客様が来てくれるようになりました。また、小豆島のYoutuberはまゆうさんとの関係も津本さんが築いて下さり、コラボしたり漁に同船させてもらったり共に魚を通して小豆島の魅力を伝えるようになりました。人の巡りって大事だなと思いましたね。自分でもこのようになるとは思ってもいなかったけれど、この出会いや繋がりを大切にしていきたいです。

木下さんのインスタグラム。ぜひフォローして、ほとばしる情熱を感じてほしい。

Q、どんなことを大切にしていますか?

良い物を仕入れないといけないし、作らないといけない。どこの飲食店さんよりも一番に魚屋さんに出向き、市場から帰ってきた魚をお店の方と降ろし、店に並ぶ前に気に入った魚を選び抜いて良い魚を買うようにしています。命を扱っている以上、なるべく大切にしてあげたい。やり始めて面白くなったのは、魚は適切に処理し管理すればどんどん進化すると言うこと。お肉や野菜と違って魚も切って提供する時代ではないと思います。僕は世間でいう旬などはほぼあてにしません。日々魚は違うし、同じ魚でも個体差はある・・・自分の目利きで良い魚、良くなるであろう魚を選び仕立て、寝かす、解体して脱水して調理しお客様へ・・・見えない価値をしっかり詰め込んで始めて品物が出来上がっていくのではないかと感じています。 日々魚の状態を見ることで、これから良くなる、悪くなるというのが分かってくるし、それを自分のデータとして残し引き出しにする。魚ほど値段に関わらず可能性を秘めている食材はないと思います。値段が安いから、評判が悪いからその魚は美味しくない、高いから美味しいではなくどんな魚であれ適切に仕立て管理し、調理すればどんな魚も美味しく輝きます。また、命を扱っている以上アラまで大切にしています。刺身醤油も小豆島で獲れたトビウオのアラを焼いて出汁醤油を作り、他にはないオリジナルの醤油を提供する事もあります。魚によって食べる時の薬味を変え、様々な魚種が輝くように工夫し、美味しく召し上がっていただきたいです。島内の方向けには津本さんが仕立てた魚を仕入れ、普段あまり食べたことのないような魚をお出ししたり、宿泊のお客様には小豆島で獲れた魚をお出ししたりするなど、お客様それぞれが魚を通して満足いただけるように考えています。

Q,これからの展望を教えてください。

やっていく内に、自分の頭の中で「自分をブランド化する」という考え方が芽生えました。この人に会いたいから、この人の物を食べたいから訪れてくれる・・・そんなお客様が増えればいいなと思いました。「津本式」をやっているのは、島内で国民宿舎だけ、僕だけが公認をいただいています。この唯一の魅力を宿にも落としていきたい。上司にも積極的にサポートしてもらい、必要な器具の購入許可ももらっています。食べてもらった時は「普段と違う美味しい造りだったよ、他の方も喜んでいたよ」と社内で声をかけてもらった事が印象に残っており、宿の武器として見てくれているのではないかと思っています。今では、自分の魅力、小豆島の魅力が世間に知られていないのはもったいないなと思うように。「しまの塾」時代は人前に出るのが苦手でしたが、今は目立ちたい、伝えたいと思っているのでSNSでもどんどん発信しています。

Q、伝えたいメッセージは?木下さんにとって「しまの塾」とは?

いきなり答えを求めるのではなくて、失敗してもいいからまずはやってみる。分からなかったら聞いてみる。僕の場合は実際分からないこと、疑問に思った事は津本さんに聞くと丁寧に教えて下さるんです。津本さんは、自分の技術を惜しげもなく動画やSNSに公開して、みんなが美味しい魚を提供できるようになればいいね、食べられるようになるといいねというスタンス。魚を通して色々勉強させていただいています。「しまの塾」は自分を知る機会でした。自分の強み、弱みは何だっけ?というのを知ることができました。色々な方の話しを聞く内に、自分ならどうするだろうか?こうした方がいいのではないか?と言うのが明確に鮮明に具体的になっていきました。今は、人は好きなことを見つけられたら変われるんだなと実感しています。

取材後期(城石より)

大阪から家族でUターンをしてきて1年目、元保育士で元魚屋勤務。そんな2017年に1期生として「しまの塾」に参加してくれた木下さん。いつも「生産者さんと繋がりたい、自分でお出しする食材を選びたい。でも中々仕入れに行かせてもらえない。」と言っていて、ある時「僕たちが島内の宿泊施設や飲食店だけと競合する時代はもう終わっていて、島内外、県外にある様々な飲食店さんがインスタグラム等で素敵な料理を発信している。もっと広く視野を持ち、食べに行き、今風を日々勉強しないといけない」と熱弁していたのが印象的でした。そして講師の方や私たちが繰り返し伝えてきた「人とのつながり」や「まずはやってみる」ことの大切さを今回、自分の言葉として語ってくれて嬉しかったです。取材に行った日のインスタグラムで「しまの塾でお世話になった城石さんが来られました。第1期生で参加して学ぶ中、僕の想いや夢、考え方を聞いてくれた城石さんに少し成長した姿が見せられただろうか・・・と同時に次なる目標や夢を語った有意義な時間を過ごせました。(中略)いつかは僕がしまの塾の講師とか・・・そんな夢を見つつ、また明日も全力で・・・」と書いてくれました。コロナで今期のしまの塾が中止となり、来期以降もどうしていこうか悩んでいた中、こんな風に思ってくれていたという事実に救われた気がします。自分の強みを様々な人の手を借りながら創り出し発信する。彼のファンが集まってくる。宿の強みとなる。今まで接する事のなかったお客様の声を、SNSを通じて聞くことができる。「良いサイクル」を実現した木下さんを、私は応援し続けます。

この文章を読んだ時、しまの塾やって本当によかったと思いました。
小豆島の漁師はまゆうさんとのコラボ動画。他にもあるのでぜひチェックを!